時代:近未来/西暦2030年
季節:紅葉前の初秋(9月)
期間:シナリオによる(Bルート:6日間+α、Aルート:6時間〜9時間)
舞台:鹿鳴研究学園都市&郊外に建つ巨大な原子力研究所「ラボ」

人口:約180,000人。
1万人を超える研究者を擁する世界有数の学術・研究都市。

国の運営に関わる重要な実験や研究を数多く手がけているため、
そのセキュリティ保護という名目の元、
街外への移動には厳しく制限がかけられている。

市外へ移動する際は、あらかじめ自治体への届け出が必要。
認可が降りないと、街からは一歩も外へ出られない。

一定のプライバシーは保障されているものの、
市外への手紙や電話、通信なども
フィルタリングがかかっているという話だ。

それと引き替えに、国が徹底した生活保証をしてくれている。
公共施設や医療施設が大変充実していて、
とてもクリーンで安心で、
治安も良く、税金も免除されている。

住民はあらかじめ全部承知して住んでいる上に、
研究畑の人間にとってこの街は天国のような環境なので、
ほとんどの市民は、特に不満もなく日々を過ごしている。

……そんな、快適である一方、不便でもある街。
街外れには、内部に原子炉を保有する
巨大な研究所『ラボ』が建てられている。








鹿鳴市の市章

鹿鳴市の郊外に建っている原子力研究所。

正式名称:『原子力生物学機構・第6研究所/
6th Laboratory of Atomic and Biological Organization』。
通称:『ラボ(LABO)』。または『第6ラボ』。

地上2階、地下2階の4層構造の巨大建造物。
国有の施設だが、運営と管理は鹿鳴市に一任されている。
内部に研究用原子炉(小型の原子炉)を保有しており、
原子力エネルギーに関する研究を行っている。
(原子核分裂実験、原子核融合炉開発研究、ラジオアイソトープ実験など)
巷では、ここには記されていない国家機密レベルの研究に関わっているとの噂もあるが……?
当然、一般市民は立入禁止。研究所スタッフか一部の
研究者のみが所内に出入りを許されている。

9月16日の“事故”によって、例の9名はこの地下フロアに閉じ込められた。
よって、渡瀬ら3名のレスキュー隊に課せられた使命は以下の通りだ。
・地下フロアのどこかにいる6名の要救助者を無事保護する。
・9時間被曝から身を守る方法を探す、あるいは、
別の脱出路を見つけ出して屋外へ避難する。

※原子力生物学機構――――
原子力と、原子力が生物に及ぼす影響に関する
研究と技術開発を行う独立行政法人。
鹿鳴市にある第6ラボは、その名の通り
『原子力生物学機構の6番目の研究所』。
2030年現在、原子力研究は国が最も力を入れている
研究分野の1つだ。
重要な研究分野は他にも、ライフサイエンス、
地球環境・科学技術、ナノテクノロジー・材料研究、
宇宙研究開発、地震・防災研究……等々多数あるが、
未だ原子力研究の意義と重要性は大きい。
今やエネルギー不足は世界的な問題となっているにも関わらず、
安全かつ高品質なエネルギー供給源はどの国も確保できていない。
21世紀初頭まで世界中で行われていたような、
従来の原子力発電ではもう駄目なのだ。
早急に核融合の実現などの、革新的な成果が望まれている。
それゆえ政府や研究者たちは、今なお原子力科学に力を入れていた。

余談だが、国が最重要研究として掲げている研究分野は、
2014年以降もう1つ加わり、その研究はここ鹿鳴市でも
盛んに推し進められている。
――とある『能力』の研究および現象解明である。

その『能力』は、『BC=Beyond Communication
(ビーシー=ビヨンド・コミュニケーション)』
――そう名付けられている。

 











 


西暦2030年――それは、テレパシーの存在が
科学的に実証された未来。


時代と共に、人間のコミュニケーションのあり方は大きく変わる。
遥か昔、仕草や行動で他者に意思を伝えていた人間は、
やがて言葉を手にした。
文字が生まれ、活版印刷が生まれ、電信・電話・インターネットが生まれ……コミュニケーションは進化していった。
そして今世紀の初頭――人間のコミュニケーションのあり方に、
大転換が起こった。

『BC』の発現である。

BC――Beyond Communication(ビヨンド・コミュニケーション)。
遠距離思考伝達、超思考伝達、遥か古えの伝達能力……様々な意味がこめられているが、

端的に言ってしまえば――『心と心を繋ぐ能力(ちから)』。

言語を介せずに他者とコミュニケーションをとれる『新しい意思伝達方法』である。

一昔前は『超能力』『テレパシー』『ESP』等と呼ばれていた能力だ。
あるいは、『場の空気』や『第六感」といった勘の良さも、BCが不完全に現れていた現象だったのかもしれない。
かつてはオカルトの世界に属していたものだが、
2030年現在においては、素粒子物理学・脳生理学・遺伝子工学などの研究の進歩により、
発現や現象のメカニズムは科学的にほぼ実証されており、今やその存在を疑う者は皆無に近い。

BCを使える人間は、『コミュニケーター』と呼ばれている。

16年前――2014年頃、BCの科学的な裏付けがほぼ整ったタイミングを境に、
それと連動するかのように、世界中で多数のコミュニケーターが生まれるようにもなった。
『多数の』とは言っても数万人に1人という割合に過ぎず、非常に稀少な存在であることは間違いない。

BCは、大きく分けて2つの種別に分けられる。

◆第1の能力:テレパシー
他人の心に直接「声」を送る能力。遠くの人と会話を行える。
送信者(話す人)と受信者(聞く人)は同時に『会話』することができない。
交互に話すのみである。たとえるなら、糸電話やトランシーバーによる会話に近い。
コミュニケーターであれば、誰でもこの能力は使える。(ただし、有効距離は能力者の技量によって変わる)

◆第2の能力:エンパシー
他人の心を読み取る能力。
ただしエンパシーは、誰に対しても無条件に使えるわけではない。
相手との信頼・共感的関係を築けていないと、エンパシーは使えない。
平たく言えば、相手が『あなたになら、私の心を見られても構いませんよ』と思っていない限り、有効にならない。
普通の人は、心にしっかり壁を作っているものなので、日常的にエンパシーが使えることはほとんどない。
この能力が使えるのは、コミュニケーターの一部のみ。(また、これも有効距離は能力者の技量によって変わる)

現在判明している能力はこの2つだけだが、BCにはまだわかってない、未知の部分がたくさんあると言われている。
なにしろ脳のしくみ自体が、そもそもよくわかっていないのだ。
テレパシーやエンパシーをさらに発展させた『第3の能力』が現れるかもしれない、というのがBC研究における通説である。

   
BCはその発見以来、世界中で研究が進められており、
日本でも国家プロジェクト扱いで進行している。

鹿鳴市にとっても重要な研究テーマであり、各研究所では
様々な研究や実験が行われている。

そのメッカが『鹿鳴市立超心理学研究所』である。
   
またBCは便利な能力ではあるが、習熟にはかなりの訓練が必要となる。
そこで近年、コミュニケーターの能力を延ばし、専門教育を施すための学校が作られるようになった。
即ちコミュニケーター専用の学校。
それが超心理学特科学校『鹿鳴学園』である。
鹿鳴学園では小中高の一貫教育により、子供の頃からBCの英才教育が施される。
無論カリキュラムには、BC関連の授業が多数組み込まれている。
入学に必要なのは、BC能力の『適性』。
毎年新たな入学生が入ってくると、学園長はこのように言葉をかける。
――『みなさんは厳しい選抜を潜り抜けた、BC能力のエリートとも言えるのです』――
   

鹿鳴学園に通う夏彦やましろにも、当然BCの適性がある。
特に、ましろは物語の開始当初からテレパシーを使いこなす程に
才能を発揮している。

このように鹿鳴市は、BCの研究と教育に力を入れている自治体だ。
また、500人に1人という非常に高い割合でコミュニケーターが居住している街でもある。
これは、日本政府が鹿鳴市への移住をコミュニケーターに積極的に推奨しているためだ。



その目的は、コミュニケーターへの正しい教育と保護。
コミュニケーターは、一般の街では誤解による迫害の対象になりやすい。
BCが大発現した2014年──まだ人々はBCに無理解だったため、世界中で数々の悲劇が発生した。
謂われのない悪意からコミュニケーターを守り、正しい方向に導くため、
国は法を整備し、彼らが心穏やかに暮らせるよう様々な優遇措置をとっている。
その恩恵を最大限に受けられるのが鹿鳴市なのである。
いわば鹿鳴市は、研究者のための街であると同時に、コミュニケーターにとってのユートピアとも言える。

さて……
このBCが、今回の“事故”にどのように関わっているのか……?


鹿鳴市に伝わる、7つの不思議な噂。
荒唐無稽な、根も葉もない噂ばかりだが、
子供時代の夏彦たちには、噂を本気で信じて
『七不思議』の謎を解こうと盛り上がっていた時期がある。
その噂をここにリストアップしてみた。
ひょっとしたら、僅かばかりの真実が紛れ込んでいるかもしれない……。


その1――
ラボはただの原子力研究所じゃない。兵器の製造など、もっと国家的で危険な研究を行っている。

その2――
旧鹿鳴市立病院の焼け跡には、火災で死んだ人の幽霊が出る。

その3――
街中の監視カメラは防犯のためじゃなくて、一般市民を監視するために作られた。

その4――
BCを悪用する悪のコミュニケーターと戦う、正義の組織が存在する。
通称BC警察。彼らの正体は謎に包まれているが、その本部は鹿鳴市にある。

その5――
正しいやり方を知らずにBCを使っていると、そのコミュニケーターはやがて、心が壊れた怪物になってしまう。

その6――
怪物化した人は、鹿鳴市保安課の隠蔽部隊によって捕まえられて、市役所の地下に幽閉される。

その7――
???

夏彦も忘れてしまっている最後の噂。
いずれ作中で語られるかもしれないが、今はまだ忘却の彼方にある。

 

【AD=Alone Desire(エーディー=アローン・デザイア)】
製薬会社『ベテルギウス新薬』が製造した、抗被曝剤。
アンプル状で、服用量は13歳以上40歳未満の者は1本。
効果時間は約60分。
通常の薬剤ではなく、医療用ナノマシンを構成体に含んでいて、
人体が受ける放射線を無害化・排出してくれる。
放射線レベルが一定値(4000mSv/h)以下の場所でなら、
ほぼ100%被曝を予防するとのこと。
逆に言えば、4000mSv/h以上の放射線が検出される場所では 、
ADを投与していても安全ではないということだ。

2021年に認可された薬剤だが、一般には流通されていない。
今回の事故に出動するにあたり、ラボよりレスキュー隊員たちに支給されたアイテムだが、作中で入手できるのは
(ラボ内の捜索で発見できる本数も含めて)全部で54本。
この薬で9時間生き延びることができるのは、6人まで。
では、あとの3人は……?

余談だが、『ベテルギウス』は、オリオン座α星。全天で9番目に明るい恒星である。

【プロキオン】
渡瀬たちが携帯している新型ガイガーカウンター。
高い感度ならびに高い精度で、15000mSv/hまでの放射線量を
測ることができるらしい。
ADと共にレスキュー隊員たちに支給された。
この計測器で、侵入しても安全なエリアを探りながら
捜索していくことになる。
なお、Aルート開始時における放射線量は『1108mSv/h』で、
なぜか数値は少しずつ上昇していく……。

2030年においても、市販の携行ガイガーカウンターは1000mSv/h程度までしか計測できない。
なぜならば、15000mSv/hまで計れる携行カウンターなんて普通に考えれば意味がない。
そんな環境下に人がいたら、まず死ぬからだ。ADがあってこそ、意味のある数字になるのだろう。
『プロキオン』とは、こいぬ座のα星。その名は『犬の先駆』を意味する。

【鹿鳴市消防局 特別高度救助隊『SIRIUS』 (ろくめいし しょうぼうきょく とくべつこうどきゅうじょたい しりうす)
渡瀬たちの所属しているレスキュー隊。
消防隊員の中から 厳しい試験をパスした者のみが入隊できる、
人命救助のエキスパートたち。
1チームあたり6名(内、1名は運転を担当する機関員)、
2チームから構成される。また、その上に司令長と司令副長がいる。
『シリウス』とは、おおいぬ座α星の事。太陽を除けば地球上から見える最も明るい恒星である。
意味はギリシャ語で「焼き焦がすもの」「光り輝くもの」を意味する
「セイリオス」に由来。中国語では天狼。
転じて、救助犬。要救助者を救う希望の星。避難路の指標。

都市ゲート
鹿鳴市の入り口に設置された門。
市境沿いにこの『都市ゲート』が6カ所ある。
市内に続く6本の道(これ以外の道では市内に入れない)は、
そのいずれかのゲートに繋がっている。
市境沿いには、軍事施設のようにぐるりと高いフェンスが
街を囲っており、要所要所に監視カメラが目を光らせている。
ゲートには検問所が設けられており、警備員が出入りする人と
物を厳しくチェックしている。

街に出入りするためには、フェンス下のトンネルをくぐらなければいけない。
たとえ制止を振り切って不審者がゲートを突破しようとしても、警備員はトンネル内の隔壁を閉じることができるので、不法な出入りは容易ではない。
隔壁を閉じると保安課や警察に通報がいくシステムになっている。

都市ゲートは、それぞれ場所によって、中国の四獣(青竜、朱雀、白虎、玄武)を表す4色+2色の計6色に見立てた配色になっている。
北ルート入り口には『玄武門』(色=黒)。
東ルート入り口には『青龍門』(色=青)。
西ルート入り口には『白虎門』(色=白)。
南ルート入り口には『朱雀門』(色=赤)。

南東ルート入り口の田園地帯には『田園門』(色=緑)。
南西ルート入り口の研究所密集地帯には『研究門』(色=灰色)。

……という形で、それぞれが配置されている。
ここに掲載されているのは、西の白虎門。
白虎は、陰陽道の五行説において「金(金行)」――鉱物・金属に対応する神獣であり、
金属のような冷徹・堅固・確実な性質を表している。
その他、収獲の季節「秋」・白・西・七夕・金星・肺・怒……などを象徴する。

監視カメラ
鹿鳴市の至る所には監視カメラが設置され、
犯罪者に睨みを利かせている。
一般的な感覚では非常に窮屈で異様な光景だが、
鹿鳴市が『政令指定機密都市』であるため必要な措置である。
政令指定機密都市――政府による科学特区指定が
なされているこの街は、治安第一の条例が敷かれている。
市内の治安の良さは、この監視カメラのおかげで
実現できているとのこと。

また、市内には研究施設が非常に多く、産業スパイ等に狙われる可能性を憂慮して、セキュリティには万全が期されている。
国策に関わる重要な研究も数多く行われているため、研究成果の流出を警戒しているのだ。
街の出入りに厳しい制限がかかっているのも、政令指定機密都市ならではの特異点だ。
カメラが設置されたばかりの14年前は、住民の中にも抵抗感が少なからずあったが、今ではすっかりと慣れきってしまっており、
「『警官パトロール中』の張り紙みたいなもんだ。心にやましいところがなければ気にもならない」
などと、監視カメラに囲まれた生活を受け入れてしまっている。
エニアグラム
作曲家、舞踏作家、時には神秘家ともいわれる
ゲオルギイ・イヴァノヴィチ・グルジエフ(1866年−1949年)が
20世紀初頭に旅の途で出会い、広めたとされるシンボル。
円周上に9つの点を打ち、それらを直線で結ぶことで表される。
エネアはギリシア語で9、グラムは図の意。
エニアグラムはその合成語であると推測される。
また、グルジエフはあくまでこのシンボルを発見しただけであり、そのルーツは古代ギリシアとも古代中国ともいわれるが、諸説あり判然としない。
1960年代以降になると、人間の本質は9種類に分類され、誰しもがその1つを持って生まれてくるという考えにもとづき、
エニアグラムは性格論と併せて用いられるのが一般的になった。

その9種類の本質とは、
Type1.批評家
Type2.援助者
Type3.遂行者
Type4.芸術家
Type5.観察者
Type6.忠実家
Type7.情熱家
Type8.挑戦者
Type9.調停者

であると分類されている。

その分類の妥当性に関する充分な説明を欠いているとする声もあるが、エニアグラムは今日も指導者やコーチを育成するための教材として、
またはちょっとした占いとして幅広く利用されている。
 
 

©イエティ/Regista