◆9月10日 8時のエピソード/Bルート――――
1時間目の授業、『超心理学』――
特別教室『BCルーム』で行われるその授業は、
この鹿鳴学園において、
特に重要なカリキュラムだった。
担当教師の『椿山恵那』が教卓に立ち、
スクリーンを前に教鞭を振るう。
「――時代と共に、人間のコミュニケーションの
あり方は大きく変わるのです」
(またこの説明か……椿山先生、
ほんとこのオハナシ好きだなぁ)
恵那はしばしばこうして、
BCに関する小話を語る。
それにしても今日の内容は、初歩的だった。
「遥か昔、仕草や行動で他者に
意思を伝えていた人間は、
やがて言葉を手にしました。
そして文字が生まれ、活版印刷が生まれ、電信・電話・
インターネットが生まれ……コミュニケーションは
進化していきました。
そして今世紀の初頭
――人間のコミュニケーションのあり方に、
大転換が起こったのです。
そう、皆さんご存知! BCの発現です!」
そう言いつつ、恵那が手元のPCを操作すると
――スクリーンに文字が現われた。
「ビヨンドコミュニケーション! それは言語を介さずに行う、
新しい意思伝達方法!
一昔前の人から見たら、はっきり言って超能力よね?
でもこれはオカルトの世界の話じゃありません。
オカルトの語源は『隠す』という事。これだけ大々的に
認知されたら、もうオカルトじゃないわ」
恵那の言う通りである。
BCが使える者、通称『コミュニケーター』たちは――
およそ16年前から、世界中で存在を
認識されるようになったのだ。
「――歴史のターニングポイントは、2014年。
BCの存在が、科学的にほぼ実証された年ね。
それと連動するかのように、世界中で多数の
コミュニケーターが生まれるようにもなりました」
恵那がそう言うと、スクリーンに新たな文字が現われる。
2014年は、夏彦たちの生まれた年でもある。
それから数年で社会に様々な変化があったというが、
夏彦はその詳細をよく知らない。
(『超能力者の巣』か……)
自分の通うこの学校が、敬意と奇異の念を込めて
そう呼ばれている事を思い、夏彦はため息をついた。
「――でね、日本は諸国より、いち早く
その教育に力をいれるようにしたの。
まさに国家的ファインプレーよね。その結果として大幅な……」
やがてそれに飽きた生徒たちから、
苦笑交じりの声が上がる。
「あの、センセー、今日の前口上は
いくらなんでも初歩的過ぎないっすか?」
「そんなん知らない生徒、この学校にはいないっすよ」
「そーそー、いつものBCうんちくならともかくね」
「あ、あらごめんなさい。昨夜BC黎明期の伝記映画観たんで、
ちょっと盛り上がっちゃってね」
恵那はこほんと咳払いをして、スクリーンの文字を消した。
ちょっと寂しそうに。
「……さて、座学はこの辺で。
そろそろ実技に入りましょうか!」
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