僕が傍に行っても、菜々香はこちらに顔を向けることはなかった。
また無視されているのだろうと一瞬思ったが、それにしてはどうも様子がおかしい。
いつもならちらりと僕の方に視線を向けるのだが、全く僕のことを見ようともしないのだ。
「菜々香?」
不思議の思いながら声をかけたとき、僕は菜々香の肩がガクガクと小刻みに震えていることに気付いた。
まるで何かに怯えているように……。
僕はすかさず辺りを確認したが、それらしき人影は見当たらなかった。
「……!」
「菜々香、どうしたの?」
「…………」
「何かあったの?」
菜々香は大きく目を見開いたまま、何も答えなかった。
僕の声などまるで耳に届いていないようだ。

「あっ……!」
「菜々香!」
咄嗟に菜々香の腕を自分の方へ引っ張る。
焼却炉の炎が勢い良く燃え出したかと思えば、
僕たちの方に目がけて火の粉が飛んできたのだ。
「…………!」
菜々香は呆然としたように僕のことを見ていた。
どうやら、ようやく僕の存在に気付いてくれたらしい。
「ご、ごめん。つい……」
掴んでいた菜々香の腕を慌てて離す。
「でも、焼却炉なんかの傍にいたら危ないと思うけど」
「…………」
菜々香はやはり答えない。
いや、言葉を発せられるような状態じゃないのだ。
先程よりも大きく身体を震わせ、捨てられた子猫のように縮こまっている。
こんな取り乱した菜々香の姿を見るのは初めてだった。


※画像は開発中のものです。